動画のコメント欄の様子はこうだ。
「風景は怖いけど、さっきの女の子は可愛かった」
「何分何秒あたり? 最初から見てたけど、誰も映ってなかったぞ」
「どうせホラー映画の宣伝だって」
真人が見える、見えない、動画を疑う……
三つの意見に分かれながら、それぞれの意見の持ち主が同意を求めて実況配信を拡散させていく。
真人の目論み通り、配信後から徐々に通知が騒がしくなっていく。
「セーラー服の女子がいた!」
「女の子が見えるって言ってる奴らなんなの……怖……」
「見える人と見えない人がいる……ってコト!?」
「変な動画が撮れたって、マジできさらぎ駅なんじゃないの」
まだ限定的な賑わいではあるが、次の情報発信が成功すれば、更なる拡散と信用を得られるだろう。
誰かが気付くのを待っていたと言わんばかりに、ガタンと重い音がする。
慌てた様子で、女性はホームの線路側を指差した。
示された先 ―― 順平と真人の目に映るのは、スピードを上げて闇の中に吸い込まれていく電車の姿。運転士も車掌もなしに、まるで電車そのものが意思を持って走り去ったかのようであった……
<きさらぎ駅の情報>
技能提案 → 順平『電脳』
配信のコメントログは『真人が見えたか否か』の議論ばかりだ。
めぼしい情報は無いが、動画の目的が拡散なのだから仕方がないだろう。
一方、リプライには諸々の意見と心配の声の他に、有益な情報が集まるようになっていた。
当時を知る者が呟く。
「はすみみたいに線路歩きながら実況してほしい」
「線路沿いを歩いてトンネルを見つけたって書いてあったよね」
オカルト好きが呟く。
「まとめサイト情報ですが、トンネルの先で人に会えたそうです」
「書き込んでたはすみさんって、今も行方不明なんだっけ」
主に集まっているのは、投稿者がきさらぎ駅を離れてからの行動だった。
『線路沿いを歩く』と『トンネルがある』という内容のリプライが多数を占めている。度々出て来る【はすみ】なる名称は、投稿者が使用した掲示板上の名前のようだ。
斯くして、“三人” は線路に降り立ち闇の中を歩き始める。
トンネルを抜けると中つ国だった……であればよいのだが。
根の国に通ずる事なかれと共鳴者に繋がる電子の命綱は、果たして ――